Lana Del Reyの新曲

 

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先月リリースされたラナ・デル・レイの新曲「Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd」。2021年に2枚アルバムを出したのにも関わらず、2023年3月にはまたフルアルバムをリリースするようで、自分の好きなアーティストの中では珍しくリリースが活発で中々嬉しい限りです。

 

 

この曲に対してどんなリアクションがあるのかはよくわからないですけど、まあ言ってしまえばここ最近の「いつものラナ・デル・レイ」であって、近作にも普通に入っていそうな曲です。

 

ただ、前作からの繋がりで考えてみると、少しそれ以前の路線に戻してきたのかなと思うところもあります。

 

振り返ってみれば前作の『Blue Banisters』はこれまでのラナ・デル・レイらしさを意図的に少し無くしたようなアルバムだったと言っていいかもしれません。

ここでいう「らしさ」とは彼女のデビュー初期から言われてきた「もったいぶった(pretentious)」表現であり、それはサウンドやボーカル面にも見られるところなのですが、歌詞の側面から見ると、ポップミュージックの歴史をサンプリングするかのような引用を多用するというところになるでしょう(例えば、メジャーデビュー作『Born To Die』の1、2曲目でボブ・ディランルー・リードの有名曲の歌詞を引用するところとか)。

 

そのスタイルを突き詰めた形が2019年の『Norman Fucking Rockwell!』でした。これ以降の彼女の表現はより装飾がそぎ落とされ、様々な面でこの「もったいぶった」ところが見えづらくなっていきました。

 

特に前作『Blue Banisters』ではそれが顕著になりました。

 

歌詞からはこれまでのポップミュージックの引用が無くなり(唯一それが見られる曲である「Thunder」は2017年以前のストック)、曲自体もピアノを主体としたスローバラードがほとんどを占める、これまでのディスコグラフィーの中で最も地味と言っていいアルバムに仕上がっていました。

ただ、ボーカル面ではそれまでにはあまりなかった感情をぶつけるような激しい歌唱も聴くことができ、装飾が少なくなった分、表現としてはよりパーソナルなものになったと言えます。

これまでラナ・デル・レイをそんなに好んで聴いていなかった音楽ライターの池城美菜子さんがこのアルバムを聴いて「彼女の素顔を覗く方法を見つけた」とレビューしたのは、その「もったいぶった」表現の有無が関係しているのではないでしょうか。

2021年 年間ベスト・アルバム 21位~30位 | The Sign Magazine

 

話を戻して、今回リリースされた「Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd」ではそんな前作に見られなくなった要素が復活しています。

 

歌詞にはイーグルスの「Hotel California」、ハリー・ニルソンの「Don't Forget Me」、

ジョン・レノンが登場してきますが、ここで注目したいのが「Hotel California」について、「ホテル・カリフォルニアを歌う少女がいる / フロリダみたいな音や響きが好きなんじゃなくて / 彼女は保存された、ごく限られた人しか見つけられないドアのある世界にいるから」と歌われていることです。

 

実は「Hotel California」はカリフォルニアという名前がついておきながらフロリダのマイアミで録音された曲だったりします。この事実をイーグルスというバンドそのものと対比してみるのも面白いですが、歌詞の少女(恐らくラナ・デル・レイ本人)は「Hotel California」の音そのものよりもそこで歌われる世界観に惹かれているということが分かります。

 

余談ですが、60~70年代の西海岸ロックに深い知見のある音楽評論家の高橋健太郎さんはイーグルスが嫌いであると述べていて、その理由がプロデューサーのビル・シムジクの音作りにあるらしく、そもそも録音場所からしてウエストコーストサウンドじゃないと述べていました。

過去に歌詞やMVに「Hotel California」を入れ込んできたラナ・デル・レイですが、西海岸のロックにやたら拘りがありそうなだけあって「フロリダみたいな音が好きなんじゃなくて」とわざわざ言うところは流石だなと思いました笑。

 

『Norman Fucking Rockwell!』は古き良きカリフォルニア、ロサンゼルスに捧げたようなアルバムで、今回、アルバムタイトルにLAのオーシャン・ブールヴァードという地名を持ってきたところからも再びカリフォルニアについての歌を作るという気概が感じられます。

サウンド面は『Norman Fucking Rockwell!』以降の匂いも感じられるので、再びタッグを組む、プロデューサーのジャック・アントノフがどう料理するのか、そこも楽しみです。

 

アルバム本編も先行シングルと同じような感じでいくのか、それとも変化球を入れてくるのか、ゲストアーティストに寄った作風の曲もあるのか(ファーザー・ジョン・ミスティ参加はアツい!)、この先行シングル1曲だけでも色々と期待が膨らんできます。

 

『Norman Fucking Rockwell!』という稀代の名盤を作り、内省的な表現にもチャレンジした後にたどり着くのはいったいどんなところになるのか、非常に楽しみなリリースになりそうです。