OPEN ALL NIGHT


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ここ数年、新年を迎えるたびに今から42年前の年明けにレコーディングされた『Nebraska』という不思議なアルバムのことを考えてしまう。

 

 

ブルース・スプリングスティーン本人はあくまで仕事始めとして新しいアルバムのデモとなるはずの音源を自宅で録音しただけに過ぎないのかもしれない。しかし、新年を迎えたタイミングでどうしてこんなにも圧倒的に陰鬱な音楽が出来上がったのだろう。この時期にはそのギャップがこのアルバムへの興味をよりかきたたせる。

 

『Nebraska』の8曲目「Open All Night」は本作で珍しくエレクトリックギターが用いられた曲だ。歌詞も他の収録曲に比べるとどこか陽気な感じでアルバムの中では少し浮いた印象を受ける曲である。しかし、それでいて同時に本作で最も恐ろしい雰囲気を漂わせる「State Trooper」と同じ歌詞を持つのがこの曲の面白いところだ。

 


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”朝早い時間には意識がもうろうとする / ラジオの中継塔よ、あの娘のところへ連れてってくれないか”

”俺の最後の祈りを聞いてくれ / このどんづまりから救ってくれないか”

 

州警察から逃げる犯罪者と夜勤明けに目をこすりながら車を走らせる労働者という対照的な2人がこのラインで交差するとき、同じ時間に車を走らせる2人を結ぶ様々な妄想がムクムクと浮かび上がる(ちなみ「Open All Night」の歌詞にはパトカー(trooper)が登場する)。

 

それだけではない。「State Trooper」と同じ結びの言葉である「Open All Night」の"deliver me from nowhere"(俺をこのどんづまりから救ってくれ)という印象的なラインの近くに「refinery(精油所)」が登場するのを見つけたとき、後の大ヒット曲「Born in the U.S.A.」で精油所で燃え盛る火の近くで主人公が”Nowhere to run, ain't got nowhere to go(どこにも行けない)"と激しく絶望する姿を思い浮かべられるように、ある時期のスプリングスティーンの曲の登場人物には曲調や世界観が異なってもどこか結びつくものを見つけられたりする。

このように各々違った曲に存在する類似点に着目しながら楽しむことができるというのも自分がスプリングスティーンの音楽に惹かれる点の一つだ。

 

『The River』の時期のアウトテイクに「Open All Night」と「State Trooper」にそっくりな歌詞を持つ「Living On The Edge On The World」という曲がある。

 


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非常に陽気で『Nebraska』とは全く結びつかないような曲調だが、世界の端っこに生きている(と感じている)人間がつながりを持ちたいとラジオDJにわずかな救いを託す様は『Nebraska』に通じる孤独さを少し感じさせる。

 

「Open All Night」は執拗なまでに夜というシチュエーションに拘ったこの時期のスプリングスティーンにしては珍しく夜明けの時間帯を描いたものであるけれど、それがむしろ登場人物の抱える絶望をくっきりと照らし出しているようにも感じたりする。

そんなことをここ2年くらいの正月に考えたりしてる。